男たちのシングル・ベル 海賊 2009年12月25日 【わんぴ】S←U さみしくなんかないやい。(U視点)※現代/大学生パロディ。 サンジ:19歳、二期生。 ウソップ:18歳、一期生。 x x x x x 恋人いない歴は19年。毎年クリスマスは、さみしいシングルベルを親友と二人鳴らすのだ。いつから、これが毎年恒例となってしまったのだろう?所謂「イイ人」の自分はいいとして、色男で伊達男でロマンチストなサンジの方は、そろそろシングルベル脱出でもいいのではないかと思う。いや、サンジの方は恋人いない歴イコール年齢ではないのだ。高校の時同じ部活だった、それをきっかけでつるみだした一つ上の親友は、男の俺から見てもかなりイケメンだ。ちょくちょく恋人だという女の子だとか、そろそろ恋人になるんじゃないかなという女の子を紹介されることもある。でも、羨ましいとかは別に何とも思わない。いや、うらやましいことは羨ましい。女の子の方が。…そう、実はおれは、サンジに惚れている。示し合わせてもいないのに同じ大学に進学した、それからもわかるように、非常に気が合うのだ。気が合う親友、を超えて、恋人になりたいくらいに。趣味の話とか勉強の話とか、おれの話を聞いて笑ってくれたりするその口で、キスをしてほしいくらいに。…と思ってるのはもちろんおれの方だけで、向こうはそんなこと気づいちゃいないし、気付かせる気もない。だって、サンジは自他共に認めるほどの女好きだし、おれは女じゃないし。そんなこと言ってサンジを困らせたり怒らせたりして、嫌われたくはない。だから、彼女に振られたサンジとこうやって一年に一度だけ、乾杯するくらいは許してほしいのだ。毎年、何でクリスマスになると恋人がいなくなるんだろうなあと愚痴るサンジと、安くてデカいケーキを囲んで乾杯をする。毎年決まって、駅前の「エトワール」の2480円のケーキ。蝋燭とサンタの砂糖菓子の乗った、どう考えても4人家族用くらいだろう、ってくらいのデカいケーキだ。毎年サンジがサンタを食べて、おれにはメリークリスマスと書かれたチョコレート。おれだってサンタの方食いたいって言っても、おれのが年上だからとか失恋で傷ついてるんだからこれくらい許せとか。本当、人の言うことまったく聞いてくれないし、自分勝手だし。でも、そんなところも好きだなあと思ってしまうおれは、かなり末期だ。今年も二人並んで下宿へ帰る。おれの手には「エトワール」のケーキ、サンジの手にはワイン。まだ二人ともギリギリ10代ではあるのだが、来年成人式のサンジはそんな小さいこと(?)を気にしない。「どっちにする?」そう聞いたのはおれ。野郎二人のさみしいクリスマスパーティを、下宿のどちらの部屋でやるか、という話。「おれの部屋は散らかってる」それは胸を張る所じゃねェぞ、とは今日は突っ込んでやらない。今年も、クリスマス直前にどうやら、彼女と別れてしまったという話を聞いてしまったので。「んー、じゃ、今年もおれの部屋かな」「おう」錆びた階段を上がって、向かって左手のおれの部屋へ。「ウソップの部屋、コタツがあるから好きだぜ」「おまえも買えばいいのに。今、結構安く売ってるぞ」「嫌だよ、部屋が狭くなるじゃねェか」合鍵を持っているサンジが勝手に先に入っていくけれど、いつものことなので気にしない。ぺい、と玄関に適当に脱ぎ散らかされたサンジの靴を奇麗にそろえてから、おれも自分の部屋に上がった。「うー、寒」電気をつけると、サンジが勝手にコタツの電源を入れるところだった。ついでにおれが朝脱ぎ散らかしていた半纏も勝手に拾って肩にかけている。「あ、それ、おれのだよ!暖かいんだから返せ」「嫌だ、暖かいから返さない」「何だそりゃ!」おれの半纏を羽織ったサンジは、そのままごそごそとコタツに潜り込む。仕方ないからおれは流しの方へ向って、グラスを二つ取り出して簡単に洗った。このグラスには、毎年お世話になっている。誰だったかにもらった、ブランド物のペアのワイングラス。去年まではシャンメリーしか入れてやれなかったお前に、やっと似合いのワインを入れてやれるぜ、と小さくつぶやいてみた。「ウソップ、のど乾いた!」「おう、今グラス持ってくから!」どうやら、テレビもつけられたようだった。お笑い番組か何かなのだろうか、にぎやかな声が聞こえてくる。ワインで乾杯、ケーキは8個くらいに切って、適当にフォークだとか手掴みだとかで食べる。初めて飲んだワインは少し苦くて、おれは最初の一杯以外はオレンジジュースだ。だけどサンジはワインの味が全然平気なようで、一瓶、ほとんど一人で飲んでいる。おれはケーキのクリームがついた指をぺろりと嘗めてから、サンジを恐る恐る伺った。「おいサンジ、もうやめといたら?」「んー…」サンジはグラスを揺らしながら、それをぼぉっと見ている。顔色があんまりよくなくて、すごく目が据わっている。こんなサンジはあんまり見たことがないから、ちょっと怖い。「ま、まァあれだよな、来年にはきっといいことあるって!」「あァ?どういう意味だ、そりゃ」「え、だから、きっとシングルベル卒業~!とか?」「シングルベル…ねェ…」うわ、この話題は失敗だった。サンジのじとっとした据わった目が、おれをすごく睨んでいる。「そ、そうだ、知ってるか?テニスサークル一期生のビビちゃん。あの子、お前に興味あるらしいぜ?」「へェ」「アタックしてみろよ、きっと来年のクリスマスは…」「他人のことばっかりかよ、お前は」サンジがつまらなそうな口調で呟いたので、おれはちょっとびっくりした。ビビちゃんっていうのは、男子の中じゃお姫様なんていうあだ名で呼ばれるくらいの、すっごいカワイイ子だ。サンジだって、興味がないはずがない。だけど、今は酒に酔っちゃって、きっと正常な思考回路が動いてないんだ。「お前さ、知らねェだろ。お前に惚れてるやつもいるんだぜ」「へ?そうなの?だれだろうな、ナミとか、ロビンとか?」二人とも、文化祭で行われたミスコンの優勝経験者だ。時々同じ単位を取ることがあるから喋ったこともあるけど、興味持たれてるなんてことは絶対ないはずだから、これはおれの軽口だ。「いや、違う」「だろうなァ」でも、特に興味もないので、おれはその話を終わりにしたかった。どうせ、おれの思いは一人の方を向いちゃってるので、答えてはあげられないと思うから。「男なんだぜ、そいつ」「へ、マジで!?」「お前、同性愛とかって偏見ある方?」「い、いや、ないけど。っていうか、そいつがいいんならいいんじゃないかな、とか」「そうか」だって、絶賛同性に惚れてる真っ最中だったりするわけだし。というか、びっくりだ。おれに惚れてくれるやつがいるということ、それから、それが男だってこと。もしもそいつがおれに告白してきたらどうしよう?断ってもしも力ずくで来られたら…とか思うと、ちょっと怖い。「…まァ、アレだな」驚いたり怯えたりあわあわしてるおれを見あきたのか、サンジが口を開く。「実は、おれ来年はシングルベル鳴らす気ねェから」「そうなの?」「ああ。このあと、告白するつもり」どきん、と心臓が脈打った。このクリスマスの日。恋人の日。おれたちがシングルベルを鳴らしているように、独りで過ごしている女の子だっていっぱいいるんだろう。そういう日にもしも、サンジくらいのイケメンに告白なんかされたら、一発で落ちちゃうんだろうな、なんて思う。「…この後って、もう、今日はあんまり時間残ってねェぜ?」電話かメールでコクるつもりなんだろうか。何度もサンジの彼女だって子は見てきたけど、目の前でカップル成立されたりとかされるのは、ちょっと辛いと思った。「いや、直接そいつの家に行くんだ」「へェ。じゃあ、よっぽどいいシチュエーション作んなきゃな。バラ100本用意するとか」「今からかよ」「じゃあ、クリスマスだし、サンタの格好して尋ねるとか」「サンタの格好か… …でもそんなんで告白されたら嫌じゃねェか?お前」「は?何でおれに聞くんだよ」「おれがこのあと告白する相手の心は、お前が一番良くわかると思って」「…」これは、どういうことだろうか。いつの間にか、サンジの顔色が元に戻っている。というより、若干赤いくらいで。「サンタの格好の方がいいか?」「いや…そのままが、一番いいと思う」コタツに足を突っ込んで、上半身にくたびれた半纏を羽織って。サンジは口を開いた。「ずっと、嫉妬してほしいから女の子たちに協力してもらったのに、まったく気づきゃしねェ」「…」「ま、でも同性愛に偏見ないってことだけは聞けたからな。良しとするか」「…」「まァ…そう言っちまったからって重たく考えすぎねェでほしいんだが」「…」「この日だけ毎年空けていた意味、わかるか、ウソップ?」ずるい。そんな顔をするのはずるい。そんな声でおれを呼ぶのは、ずるい。「好きだ、ウソップ。付き合ってくれ」…だって、こんな日に一人でいる奴が、サンジくらいのイケメンに告白されたら、一発で落ちちゃうだろ。何せ、おれはずっとずっとサンジのことが好きだったわけだし。初めてのキスは生クリームの味で。二回目のキスは砂糖菓子の味。三回目のキスはおれからしたから、きっと、チョコの味だったんだろうな、と思う。来年からきっともう、シングルベルの音を聞くことはないだろう。-----チョパ誕書いてたハズなのに煮詰まってクリスマスサンウソ。しかもパラレル。コタツで半纏羽織ってラーメンでも啜りながら馬鹿みたいなバラエティ番組を見るのは、多分青春。チョパ誕は…明日以降書けたら書くます。ゾロチョの予定。 PR