オレンジ探偵社の愉快な人々[4] 海賊 2010年09月06日 ~これまでのおはなし~[1]/Entry/122/[2]/Entry/123/[3]/Entry/124/このシリーズには以下の要素が含まれます。・退魔師系パロディ。・なんちゃって退魔師なので、間違った知識がウロウロしてます。・なんちゃってオカルト、怖い話系のネタを含みます。・あんまり退魔してないです。・メインはウソップ、ナミ、サンジ、ゾロ辺り。・ゾロサン、サンウソ要素が濃い目にあります。・サンジが節操なしです(他CPも可能性有)ゲストにコニスちゃん。今回もCP要素ほとんど含みません。お仕事の話は含みます。大丈夫そうでしたら以下からどうぞ。 x x x x x「コニスです。今日は、よろしくお願いします」「『オレンジ探偵社』のナミよ。それからウソップとサンジ、あと向こうの腹巻きの男がゾロね」 10時きっかり、尋ねてきた女性は線の細い美人だった。もちろんサンジが即メロリンポーズで言い寄ろうとしたことは言うまでもない。 一部の若い女の子の間で流行らしいバルーンヘアに、体のラインに沿ったワンピース。垂れ目がちの顔は笑えば、きっとかわいいだろう。だけどその顔は今は不安に沈み、喋る声も今にも消え入りそうだった。 彼女を応接用のソファに座らせ、向かいにはナミとノートPCを広げた俺。サンジはその横に立っている。離れた壁側のソファにはゾロが座ってはいるが、既に舟をこぎ始めていた。 コニスはそのゾロを不安げな目で見、くねくねしているサンジを不審げな目で見、俺のチャームポイントである長い鼻を奇異の目で見…っておい。…とにかく、最後にナミを不安げな、だけど期待するような目で見た。「じゃあ、最初から話してもらえる?分からないことがあったら質問させてもらうわ」「わかりました」 ナミの言葉に一つ頷いて、依頼主は口を開いた。「…最初は、気のせいかなって思ったんです。古い家ですし、それくらいの軋みとかはあるかなって」 ラップ音か、と話の流れから俺は推測する。良くある話だ。「だけど、違うんですよね。軋みなら不規則だけど、その音、すごく規則的なんですよね。…まるで、歩いてるみたいな」 コニスの話はこう続いた。彼女は父と二人暮しで、父が出かけている間は二階に誰もいるはずがないこと、足音のほかに時々床を擦るような音も聞こえること、寝ているときなどには一階に下りてくることもあること。 そこでコニスが一息ついたので、俺は一気に今までの話をノートPCに打ち込み、疑問点を質問することにした。「様子見に行ったことはねェのか?」「一度見に行ったんですけど、誰もいませんでした。見に来たのに気付いたみたいに、音も消えてしまって」「痕跡とかは?」「それも、特には。…だけど夜中、障子の向こうに、四足の動物みたいな影が映ってたことならありました」「動物の影?」 俺は聞き返しながら、テキストエディタで同じ言葉を打ち込んだ。コニスは頷く。「はい。最初はスーかな、と思ったんですが…」「ちょっと待って。スーって何?」 今度口を挟んだのはナミ。「あ、はい。うちで飼っている雲狐です。ふわふわで、とってもかわいいんですよ」 そこで初めて、コニスは微笑んだ。思ったとおりの、すごくかわいい笑顔。隣でサンジのくねくねが激しくなった。一番の怪奇現象はこいつなんじゃないかと時々思う。「でも、その子じゃないのね?」「ええ。大きさが全然違いました。スーはこのくらいなんですが、その影はもっと大きかったんです」 このくらい、と言うとき彼女はバスケットボールを抱きかかえるようなジェスチャーをつけ、もっと大きかったと言うときには両手を肩幅に広げた。「でも影なら、障子から離れていたら実際より大きくなるんじゃないかしら?」「そうですね…。…そう言われると、そうだったかもしれません」 ナミの言葉に、少し自信を失ったようにコニスは俯いた。サンジがおろおろと二人の女性の間に視線をさまよわせる。しかし、コニスはすぐに首を振り、いいえ、と言った。「ナミさん、でも違います。違いますよ、あの影がスーなら、他の現象に理由がつけられません」「他の現象?」「はい。他にも、変なことが起こってるんです」 コニスはナミの目を見つめ、力強く頷いた。「家の門が勝手に開くとか、庭の植木鉢が全部がひっくり返っているとか…こんなの、雲狐にはできないですよね?」「門に鉢?子供のいたずらじゃないのよね?」「門は閂がついているし、庭は縁側からでないと入りづらいんです。家の中からでも見えますし。だから、誰かが入り込んだとかそういうことは絶対にありません」 急に出てきた色々な情報に、慌てて俺はキーを叩く。「門が開く」に「鉢がひっくり返る」?典型的なポルターガイスト現象じゃないか。話はどんどんオカルト染みてきた。「…それから、窓に変な傷がついていたこともありました」「傷?」「庭に面している窓のガラスに、外側から変な傷がついていたんです」 コニスは俯いた。顔色が青くなっている。「はい。鋭い爪で激しく引っかいたみたいな傷でした。1階の窓にも2階の窓にもあって。飛び散った血みたいな汚れもあって…」「血みたいな汚れに傷、ね。雲狐の…えっと、スーが縄張り争いをしたとか、そういうわけじゃないのよね?」「もちろんです。スーは喧嘩が嫌いだし、一人で家から出ることもないんです」「ふぅん…」 ナミは顎に指をあて、考え込んでしまった。「それは怖かったね、コニスちゃん!でも君に怪我がなくてよかった!」「え?あ、はぁ…」「天使のような君にもしものことがあったらと思うと…!ああ、胸が張り裂けそうだ!!」「え、えっと…」 それを機会にとサンジがコニスの前に進み出て、その前に跪きマシンガンのごとく喋り始める。コニスは何と言ったらいいのか分からないようなあいまいな顔で、手を振り払うタイミングをつかめずにいるようだった。 俺は、情報を打ち込んだPCの画面を眺めた。歩き回る足音に夜中に現れる獣の影。勝手に開く門、ひっくり返る植木鉢、窓の傷。確かにこれは、俺たち向けの仕事だ。「ナミ」「わかってるわよ」 だけど、最終判断は社長のナミの仕事。俺は波の横顔を見つめて待つ。「…コニス」「はい」 やっとサンジの両手からさり気なく手を外すことに成功したコニスは、ナミの視線に真っ直ぐ答える。「仕事を引き受けるわ」「あ、ありがとうございます!」 彼女の顔がぱあっと明るくなった。 この瞬間が、俺は好きだ。悩んで沈んで暗くなっている人の、その重みが取り除かれる瞬間。そう考えるとやっぱり、俺はこの仕事についてよかったなあと思う。ナミの采配は、いつだって人に優しい。「ところで料金のことなんだけど」 …前言撤回してもいいだろうか。「あ、はい。ロビンさんから聞いています。持ってきました」 ナミは厚ぼったい封筒を受け取った。とたんにんまりとする表情で、思ったよりも多い枚数がそれに入っているのだろうと簡単に予想がついた。「今からすぐに調査に向かいたいのだけれど、良いかしら?男三人なんだけれど」「はい、もちろんです」「ありがと。…サンジくん、ウソップ、準備は大丈夫?」「もっちろんです、ナミすゎん!」「俺も大丈夫。荷物は全部準備済み」「じゃ、あとはゾロね」 4対の視線が、同時に部屋の隅のソファに向く。この話の間中ずっと響いていたドラゴンの鼻息みたいな音は、もちろんゾロのイビキだったわけで。 豪快に背もたれにもたれて大口を開けて幸せそうな寝顔に、ナミの顔が不機嫌になる。「サンジくん」「お任せくださいナミさん!」 そう威勢良く言って、指名を受けたサンジは大きくお辞儀。そして顔を上げると同時に二歩ステップを踏んで反動をつけ、片足を高々と上げると、「起きやがれクソマリモーッ!!」「!?」 そのまま、踵を緑の頭頂部に振り下ろした。ぐらりと大柄な体がゆれ、ソファから崩れ落ちた。床に倒れ、ぴくりとも動かない体に、コニスが息を呑む。ナミが大きくため息をついた。「あ、あの、えっと…」「大丈夫よ、いつものことだから」 怯えるコニスに適当にナミが言葉を返す。その言葉が聞こえたわけでもないだろうが、床に倒れた体はのっそりと起き上がった。「…朝か」「本日2回目だ、クソ寝坊野郎め」 くわぁと大口を開けてあくびをするゾロに冷たい視線を向けるサンジ。こんな風に乱暴に当たっている二人を見ると、朝同じベッドに入っていたとは思えない。「ゾロ、仕事よ。このコニスの家で妙な事が起こってるみたいだから、解決してきて」「…話が全く見えねェんだが」「寝てたアンタが悪いのよ」 どんどんナミが不機嫌になっていくのが分かる。もちろんゾロが悪いって言うのには完全同意だけど、これ以上お客―コニスに変なところを見せて信頼を失うのはまずい。あとで絶対ナミに殴られることを覚悟して、俺は二人の間に割入った。「まぁまぁゾロ、あとで俺が説明してやるから。ナミも!いつものことなんだからそんな気ィ立てんなよ!」 このままじゃ金にならなくなる可能性もあると思ったのだろう、ナミはあっさり引き下がった。ゾロはまだ何か言いたげだったが、頼むから面倒はやめてくれと言う俺の無言の視線に気付いたらしく、ぼりぼりと頭をかいた。「…まあいいわ。じゃあコニス、よろしくね」「は…はい」 どうやら既に半分くらい信頼を失っているような気がするが仕方がない。俺たちはコニスに続いて事務所を出る。「行ってらっしゃい!」 ナミが大きく手を振ったので、俺も手を振り返した。-----無駄に長すぎた…オカルト大好き黒兎さんなので退魔というより本当にあった怖い話的なアレになりそうです。書き溜めここまでなので少々暇を頂きます。うーん、話をシンプルにまとめる力が欲しい。あと早く書ける力が欲しい。 PR