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マイナー作品とかのションボリ二次創作を細々と。

【三国】3月の雪

【三国】淵蝶 ※現代パラレル、同棲/甘々。

ほら、何て珍しい日!



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昨日の天気予報では雨だと言っていたはずだが、カーテンを開けた夏侯淵の目に映ったのは、

「雪だ!」

天から降り落ち地上を白く染める、恋人ならば「美しい」と表現するだろうその欠片だった。


3月の雪


夏侯淵は急いでベッドの傍に戻り枕元に丸めておいた上着に腕を通すと、となりのベッドで丸まっている張コウに声をかけた。

「おい、雪降ってんぞ。起きろー」
「…ううん」

しかし、誰よりも美しいものを愛するはずの恋人は、そう寝息を漏らしたきりより深く布団に顔をうずめてしまう。
低血圧なのだ。

「張コウ、雪綺麗だぞー。見なくていいのか?」
「寒い…」
「雪降ってんだから当たり前だろ。ほら、起きろ!」
「雪なんて…3月だろうが8月だろうが、降るときには降りますよ」

張コウの声は非常に寝ぼけ声で、さらに布団に頭を突っ込んでいるもんだからくぐもって聞こえ辛い。
いつもなら、そんな寝起きの悪い張コウを放っといてやる優しい夏侯淵なのだが、今日は状況が違う。
何と言っても、雪がふっている。
今眠いのだろうがそんなことは関係ない。自分ですら綺麗だと思うその光景を、この美しい物好きの恋人に見せてやりたかったのだ。

「起きろって、張コウ」
「うう…やめてくださいってば…」

力ずくで毛布を剥がそうと試みるが、そこは張コウも男。端をしっかりつかんで離さない。
体勢的に力ずくでは難しいと感じた夏侯淵は、作戦を変えることにした。

「ひゃああッ!?」

すなわち、冷えた手を毛布に突っ込んでやろう作戦。
どうやら夏侯淵の手は、張コウの手首あたりを掴んだようだった。
夏侯淵の手のひらには眠たい体の温かさが伝わってきたが、その温かさを奪われた張コウは、変な悲鳴を上げて体を起こす。

「もう!なにするんですか!」
「お前が起きないから」
「まだ目覚ましも鳴っていないのに!」

腹を立てた調子で張コウは、着替えるので出ていってください、と言った。
へいへい、と答え、夏侯淵は素直に寝室を出る。
寝起きの彼にはよくあることなのだ。



「…先程は、すみませんでした」

数分後、食卓を囲んで「いただきます」と手を合わせた張コウは、ぽつりと夏侯淵に言った。
丁度トーストにかじりつこうとしていた夏侯淵は、中途半端なところで手を止め張コウを見る。

「淵殿の優しさだと分かってはいるのですが…どうしても、朝は弱くて」
「いいって、いつものことだし。気にしてねえよ」

夏侯淵は心から言ったつもりなのだが、どうやら逆効果だったらしく張コウはしゅんとしてしまった。
慌てて夏侯淵はトーストを一口かじり、窓の外に目をやって話を変えることにした。

「雪、まだ降ってんなあ」
「そうですね」
「外、行くか?」
「雪降ってますよ?」
「いいだろ。こんな降るなんて珍しいし。買い物でも行こうぜ」

はい、デートですね、と張コウが微かに笑うと、夏侯淵の満面の笑顔が返ってきた。



「わあ!すごいですね!」

朝食も食べ終わり、半刻後。二人は連れ立って家を出た。
傘は持っていない。雪の降りは大分収まって、足元を白く染める他はちらちらと視界をよぎるくらいだ。
さきほどのしょんぼりした表情をどこにおいてきたのか、張コウはその中で、大層楽しそうだった。

「あんまり急ぐな、転ぶぞー」
「ふふ、大丈夫です!」

マフラーと長い髪を揺らし、張コウが振り向く。
笑顔を浮かべた張コウは数歩もどってきて、夏侯淵の腕に自分の腕をからめた。

「ね、ほら。大丈夫です」
「お、おい」
「大丈夫ですよ、誰もいません」

細い通りは、天候のせいか人通りがない。
それでも真昼間、外、堂々と腕を組んで歩くというのは、どうにも夏侯淵には恥ずかしかった。
しかし張コウは腕を離す気はまったくないようで、鼻歌など歌って上機嫌なのである。
仕方ない、と夏侯淵は発想を変えることにした。
3月の雪、珍しい日。
それならば今日くらい、珍しいことをしたっていいじゃないか。

「―張コウ」
「はい、なんでしょう?」
「今日は、寒いな」
「雪が降っていますからね。あなたが教えてくれたのでしょう?」

ふふ、と張コウは笑った。
雪が止みかけ、雲の切れ間から鮮やかな青を覗かせる空に、その笑顔はよく似合っていた。

「な、寒いよな。体の芯から冷えちまう感じだ」
「どうしました?マフラーかコートでも買いに行きます?」
「だからさ、張コウ。お前が俺を―」

その先を、夏侯淵は伸び上がって直接張コウの耳に届けた。
その言葉を脳に届けた張コウの耳が、寒さ以外の理由に真っ赤に染まる。

「ッ、淵殿!親父臭いですよ!美しくありませんっ!!」

怒りを含ませた声で張コウは言い放ち、ぷいっとそっぽを向いた。
しかし、その腕は未だ夏侯淵の腕を掴んだままで。
耳から頬へ、首の方まで真っ赤に染まるのをみて、夏侯淵は満足した。
いつもならば一方的に届けられる愛の言葉。
そんなものを、自分から届けたっていいじゃないか。

「さ、帰ろうぜ」
「買い物はどうするんです?」
「いいだろ、食い物ならなんかしらあるし」
「なんですか、買い物に行きたいと言ったのはあなたでしょうに」
「体があったまる食い物が食いてえなあ。例えば―」
「…もう、親父発言は勘弁して下さいね」
「バレたか。なら、とりあえずつまみ食いだけでも―」

珍しい日だから。
珍しい場所で、珍しく自分から。

「え、淵殿!」

キスなんかも、してみたりして。




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3月に雪が降ったら「珍しい日」と「雪」をお題に
その時ハマってるキャラで話書こうって言うのは、
何故か3年くらい続いてる気がするんだが。
(ファコノ→サンウソ→淵蝶)
良く考えると3月って結構雪降るのよね。
おいらの誕生日前後にも降ったってきいた。

久々の三国文章だ!
甘すぎて砂糖吐くかと思ったが、淵蝶はやっぱり甘々に限る。
淵が別人な気がする。
だが張コウはやっぱり書きやすい。

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