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マイナー作品とかのションボリ二次創作を細々と。

【FE新紋章】きっと運命ではなかった

【FE新紋章】ジョルジュとサムトー

もしかしたらあったかもしれない出会い。

※6章前辺り



あ、テンプレート変えました。



「それではナバール殿。何か必要なものがあれば遠慮なく声をかけてくれたまえ」
 長い黒髪を背に垂らしたその剣士は、値踏みするように広い部屋を見渡している。
 返事は待たずに、ラングはその背に声をかけた。
「貴公の力が必要になったらまた声をかける。それまでは、この部屋で自由に過ごすといい」
「…ああ」
 剣士は振り向き頷く。その左手は、さり気なく腰の剣の鞘にかけられていた。いつでも戦う準備なら整っているという意味なのだろう。感情の読めぬ冷たい瞳、無愛想に引き締められた薄い唇。『紅の剣士』とは、剣を振るう場さえあれば、その正義をも問わぬ殺戮マシンなのだという。多分、冷静に見えるその表情の下は戦の気配に燃え滾っているのだ。
 ラングは満足して一つ頷くと、では、と言ってその部屋を出た。



 重々しい扉が、ばたん、と閉まる。
「…」
 剣士はその閉じた扉をしばらく見つめていたが、不意に、
「…ぶはァー!」
 派手な、ため息を付いた。
「うわあ、何だよこれ。結構大事じゃねえか」
 先程までの冷静な表情はどこへやら、眉尻を下げた情けない表情を、その男はしていた。
 ふらふらと部屋の隅にある寝台に歩み寄ると、鎧も取らず靴も脱がずに倒れこむ。
「何がナバールだよ、違うって最初に言ったじゃねえか」
 はあ、ともう一つため息。
 そう、彼は『紅の剣士』ナバールではない。サムトーという名の、単なる傭兵であった。
 若い男、黒い長髪、細い体躯、そこそこに整った顔立ち、傭兵という職業、そして腰に下げた剣――という複数の特徴が、奇跡的に有名人である『紅の剣士』と重なってしまったという、それだけの存在だった。ナバールに会ったことのある男に言わせれば、顔立ち自体も似ているらしいのだが。
 『ナバール』という名は便利だった。彼はこの大陸では有名な傭兵である。どこそこで女を助けたらしいとか盗賊団を壊滅させたらしいとか、そんな剣呑な噂ばかりをよく聞く。『紅の剣士』という二つ名は、赤い刃の刀を持っているからとも返り血で真っ赤に染まっているからとも言われているが、そのどちらの意味だったとしても、それは決して平和な意味ではないだろう。そういう、名の知られ方の男なのだ。つまり、金を巻き上げるにも喧嘩を売るにも、リスクが高すぎる相手だということだ。便利な名だった。
 サムトー自身は、ナバールだと名乗ったことはない。相手が勝手に勘違いするだけだ。今回とて、そうだった。

―あなたが、近頃名を上げている『紅の剣士』――ナバールですね?
 酒場で適当に飲んでいた時、そんなふうに声をかけられた。高級そうだが全く戦の役には立たなそうな鎧をつけた男は、私はラング将軍の使いです、と名乗った。彼の後ろには、同じような鎧を着た彼の部下らしい男が2,3人付いている。
 厄介ごとだ――すぐに分かったサムトーは、人違いだと正直に答えたのだ。そうしたら男はにやりと笑った。
―嘘などつかなくて良いですよ。我々はしっかりと調べているのです。それとも私たちを試しているのですか?さすがは『紅の剣士』だ。
 違う違う、と手を振るサムトーの行動など見えないかのように、鎧の男はカウンターの上に大金の入った袋を置いた。袋の口は縛られていて中は見えなかったが、聞いたことのないほどの、じゃらん、という音が、その中に詰まったものの重さを表していた。
 だから俺は―…言いかけたサムトーの声を遮るように銀鎧の男は言葉をつなぐ。
―金なら払いますよ。ラング将軍は気前のいい男です。それに、あなたに相応しい戦場も用意してある。
 さあ、ぜひとも私達と共に。
 面倒くさい、と思った。このままここで問答を続けるのも、強引にこの銀鎧たちの囲みを突破して逃げるのも。
 だからしょうがなく、本当にしょうがなく、サムトーはその手を取った。
 そこからはあれよあれよといううちに話が進んでしまった。
 敵は裏切った同盟国の軍。ラングは彼らの進軍を阻む国境の砦を任されている。ナバールにはそのラング将軍とやらの警護を頼みたい…。それらの言葉ごとに、サムトーの目の前には金袋が積まれた。
 戦場の先頭に立てというわけでも敵将と一騎打ちをしろというわけでもない。外にいるラングの私兵たちが敵軍を追い払えば、戦わずして大金を手に入れられる。甘い言葉たち。
 だからサムトーは、承知した、と無愛想な顔で答えてしまった。

 過去を思い返した所で何もいいことはない。自分の馬鹿さ加減を最確認するだけの結果に終わってしまった。
 半ばこの屋敷に軟禁された形になってしまい、今から逃げるのはもはや無理だろう。どんな噂を聞いたのやら、ラングはやけに『ナバール』を信頼しているし、戦が始まってしまえば自分も戦場に駆り出されることは想像に難くない。
「戦争…か……」
 これまで使ったことのないほどの柔らかい布団に半ば埋もれながら、頭をかき回し呟く。
 面倒くさいな、と思った。
 面倒くさかったから来ただけで、戦争の理由も、ラングや敵のマルスとやらの正義も聞いていない。サムトーには、戦う理由がない。ラングという男のことも好きになれない。
 ラングという男は、見た目こそ歴戦の将然としているが、その言葉の端々から覗くのは、自身の治める地に住む人間たちへの侮蔑の言葉や不遜な態度。サムトーがもしもナバールではなくサムトーの名のままここに召還されたのだとしたら、その態度は自分にも向けられていたことだろう。名前や立場で他人を見る人間。嫌な気分になった。
 もう一度大きくため息を付いた時だった。


 こんこんというノックの音に、慌てて飛び起きる。
 乱れた髪と布団を直し、扉に向き直って何だと声をかければ、一人の男が入ってきた。
「―久しぶりだな、ナバール。俺を覚えているか?」
 入ってきたのは、金色の髪をした涼しげな青年だった。細く均整のとれた体つきをしている。
 久しぶり、という言葉の通り懐かしげな表情を浮かべ、こちらの顔を伺ってきた。もちろん、サムトーの知る顔ではない。…だがこの言い方は。
 彼は知っているのだ。会ったことがあるのだ、ナバールに。
「…といっても、あの頃にはほとんどお前と話したことはなかった―かな」
 サムトーは硬直していた。ナバールを知っているという男には会ったことがあるが、彼に『ナバール』として会ったことはない。このようなときの対処法は、まだ彼の中で確立していなかった。
 そんなサムトーの心の中、そして正体に、しかし目の前の男は気づかないようだった。もしかしたら、ほとんど話したことがないというとおり、そこまでよく知っている間柄ではないのかもしれない。…それなら。
「だが、活躍は見ていたよ。お前の剣は綺麗だった。アストリアも、あんなに無駄のない綺麗な剣を振るうことはできなかったからな」
「…そうか」
 出来るだけ言葉を少なく、無愛想な表情を作って。成功率の高い方法を、サムトーは取ることにした。
「あいつは、お前のことをライバル視していたのだよ。気づいていたかい?」
「いや」
「だろうな。あいつは悉く無視されていて、横から見ていて可哀想なほどだった」
 そう言って、青年は愉快そうに笑った。
 アストリア、というのはナバールと目の前のこの青年が共にいた頃の仲間なのだろう。当然サムトーはその人のことを知らないので、鼻を鳴らすにとどめておいた。
「そっちへ行っていいか?」
「…そっち?」
「君が来たと聞いて訪ねてきた昔の仲間を、立たせたまま会話を続ける気か?」
「あ、」
 その言葉にサムトーが慌てて立ち上がる前に、青年は大股で部屋の中に入ってきた。
 応接セットの方に移ろうかとも考えたが、その前に青年はサムトーの前までたどり着いてしまう。ふ、と笑って、寝台に腰掛けていたサムトーの隣に、当然のように腰掛けてきた。柔らかい布団が、沈む。
 彼は何か言おうとしてサムトーの顔をちらりと見た後、しかしその言葉を飲み込んで視線を外し、別の言葉を口にした。
「…最近、特に君の名を聞くようになった気がする」
「そう…か」
 少し手を伸ばせば触れる位置に、ナバールを知る者がいる。サムトーはまた取るべき行動がわからなくなって、視線をそらした。
「噂に聞いたのだが、君はこの近くの村で、盗賊に襲われそうになっていた女性を助けたそうだな」
「そんな…こともあったか」
「お礼にと、食事をごちそうになったと聞いたが」
「…ああ」
「その時に、君は珍しくもよく喋ったと言うじゃないか。雇われた闘いのことなんかを。珍しくも」
「……」
 これ、は。
「…俺の知るナバールという男とは、随分と印象が違うと思っていた」
「……」
「先程までは半信半疑だったが――これだけ近くで見れば、わかるさ」
 腰の剣に、さり気なく手を伸ばす。
「……」
 青年が、矢で射ぬくが如くの鋭い視線を彼に向けて。
「お前は―――誰だ?」
 その言葉を青年が言い終わるのとサムトーが動くのは、ほぼ同時だった。



 どちらも口を聞かない。
 片方は寝台の上に仰向けに倒れ、その喉元に剣を突きつけられており、もう一人はその体を抑えつけるようにしながら、喉元に剣を突きつけている。剣を持っている方は感情を隠さず相手を睨みつけているのに対し、突きつけられている方は冷静な顔をしていた。対照的な二人の顔はキスでもできそうなほどに近かったが、もちろんそんな雰囲気はない。
 先に沈黙を破ったのは、剣を突きつけられている方だった。
「……それで、君の名前は?」
「それを知ることは必要かい?俺の情報なんて、ナバールのニセモノってところまでで充分だと思うんだけどな」
 剣を突きつけている方は、問いには答えず肩をすくめて軽口を返す。
「幸いなことに凄い額の前金は既に頂いているしな、バレちまったからには出ていくさ。だがお兄さん、俺が出ていくまでの少しの間、黙ってちゃあくれないかな」
 約束してくれないと、残念だけど俺は人を殺さなければいけなくなる、とナバールではない男は言った。
 なるほど、と青年は思う。先ほどの剣を抜いて斬りかかってきたスピードはかなりのものだった。恐らくは、ナバールが相手でも互角に渡り合えるであろう速さだ。だが、抜かれた剣は青年の首の皮一枚も傷つけてはいない。そこがこの剣士とナバールとの埋められない大きな差であり、ナバールをナバール足らしめているものなのだろう、と青年は思った。
 つまり、この剣士は優しすぎるのだ。
 黙っていてくれと言いながら完全に口をふさぐことをしない。今相手が大声を出せばそこで終わりだというのに、殺したくないと言うのだ。
「君。ラング将軍のことをどう思う?」
「聞いてくれよ俺の話を…」
 喉元に剣を突きつけられ、命が風前の灯のはずの相手は全く話に乗ってこない。先に相手の言葉を無視したのは自分だということも忘れて、剣士はため息を付いた。
「…好きじゃないよ。あいつは、自分の村人を道具だとしか見ていない。金を納める道具として、さ」
 自慢話を聞いた。税金を払えない貧しい家族の女性を攫って犯し、散々弄んだあと、残りの家族共々に死刑にしたという自慢を。
「奴隷商人より酷い。それは盗賊のようなものじゃないか。…胸糞悪い」
 奴隷商人は女を犯さないし、健康な男を殺すこともない。人としての尊厳を奪うという点では奴隷商人もラングもそう変わらないが、死を与えて未来を奪うという点で、決してラングを許すことはできない。
「そんな男のために戦う気になるか?俺は、戦になる寸前に金だけもらってとんずらする気だった。それが早まるだけさ」
「――早める必要はない」
「ん?」
 喉元に剣を突きつけられながら、青年はかすかに笑った。
「幸いなことに、その胸糞悪い男は金を持っている。旨い料理を食べ風呂に入り上等な布団を堪能してからでも、出ていくのは遅くあるまい?」
「…」
「既に戦の準備は進み、村人たちは避難済みだ。彼らの金がこれ以上使われることもないから、いくらでも食べていくといい」
「…どういうこと?」
「俺が、あの男にお前の正体を話すことはないということさ」
 剣士は呆けたような表情を浮かべ、首を振る。
「………信じられない」
「それならば出ていけばいい。だが、俺もラングは好きではない。それは、本当だ」
 剣士の顔の上を、色々な感情が滑っていく。めまぐるしく変わるその表情を、剣を突きつけられながら青年は見ていた。
 その中にはナバールによく似たものもあったが、似ていないものが大半だった。大体、感情を表に出したナバールというものを男は見たことがない。
「……」
 そして、喉につきつけられていた剣が、無言のままにそっとひかれる。青年は起き上がり、剣士を見る。
 しゃら、と綺麗な音を立てて鞘にしまわれるその剣の刃が紅いことに、青年は初めて気づいた。この剣士がナバールの名を語るための小道具なのか、それとも単なる偶然なのか、青年には判断ができない。だから、もう一度問うた。
「君の名前は?」
「…サムトー」
 今度こそ答えが帰ってきて、青年は微笑んだ。
「ジョルジュだ」
「ジョルジュさん。…よろしく」
 サムトーと名乗ったその青年が手袋に包まれた手を差し出してきたので、ジョルジュはその手を握り返した。
 その手は暖かくて、もしもナバールならば冷たかったのかもしれないな、とそんなことを考えた。







なんぞこれ。

オグマとサムトーの元剣奴コンビが好きなはずなのに、
何故かジョルジュとサムトーという関連性が全く見えないコンビ。
いや、共にラング仕えだったぽいので、そこで面識あったら嬉しいなーと思ったので。
CPじゃないと思うんだけど、
ジョルジュさんが偽物をちょっと気にかけてくれてたらいいなーとか。

「なんか、ナバールっていう有名な剣士ににてるらしくってよくまちがわれるんだ。
 だから、めんどくさくなってナバールってことにしたら、ここにやとわれた」
サムちゃんってば、すげえバカっぽくて大好き。


妙に長くなった上に視点がよくわかんなくなってしまた。
っていうかタイトルが全く思いつかず、txtファイル名がずっと「ラングさんちにて」だった件。
でも久々に文章完結させられた!よかったー

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