子守唄の要らない夜 幻水 2008年05月11日 その左手の温かさだけが全てだった。幻水1 坊ちゃんとグレミオ。 x x x辺り全てが真っ暗だった。驚いて自分の手を見下ろすが、それすら見えないほどの黒。誰かいないかと呼ぼうとするが、声が出ない。それどころか、開けた口から進入してくる黒。逃げようとした。しかし足は動こうとしない。ただ、恐ろしかった。しかし。(大丈夫ですよ、私が守りますから)耳に届いた声。視線を上げれば、あれほど真っ暗だった世界の中にぽつりと浮かんだ姿。金の髪と緑のマントを揺らして微笑む顔。その名を呼ぼうとした。しかし声は出ない。自分の体が、段々と光に包まれるのを感じた。暖かい光。それと同じように、闇に包まれていく彼の体。手を伸ばす。届かない。その名を呼ぼうとする。声は出ない。伸ばす手にも、開けた口にも光がまとわりついて、無理やりに闇から引き出そうとする。足が、腕が、体が、光に飲み込まれる。彼の足が、腕が、体が、闇に包まれる。それなのに、微笑む顔。(大丈夫ですよ、絶対に私があなたを守りますから)ちっとも大丈夫なんかじゃないのに、そう言い残して、彼の姿が完全に闇に飲み込まれた。(大丈夫ですよ、坊ちゃん。あなたの幸せが、この私の幸せなのですから)そして僕は目を覚ます。…ちゃん、大丈夫ですか、坊ちゃん!目を開けると、自分の顔を覗き込んでいる誰かがいることに気付いた。「うなされていましたよ。大丈夫ですか?」金色の髪、頬に十字の傷。それを見止めた僕は、思わずその頭を抱き寄せた。「わわ、坊ちゃん!?」グレミオは驚いたように声を上げたが、僕が泣いていることに気付いて口を閉じた。「…大丈夫ですか、坊ちゃん」「大丈夫じゃない」「怖い夢でも見ましたか?」「怖い夢を見たよ。お前がいなくなる夢だ」「私が?」「そう」僕を光へ導く代わりに自らを闇に沈めた。随分暗示的な夢じゃないか。でも、グレミオはそれくらいやりかねない。僕が生き残る為に死んでくれと言えば喜んで死んでくれるだろう。それが僕にはたまらなく嬉しくて、同じくらい悲しかった。「…大丈夫ですよ、坊ちゃん。私があなたの傍を離れることなどあると思いますか?」ない、と断言できる。でも、前述の通りだ。グレミオが、僕の命か自分の命かを天秤にかけたとしたら、かけるまでもなく選ぶ側は決まっているのだ。「…絶対に、僕の傍から離れるなよ」「わかっていますよ、坊ちゃん」だから、今日はもう寝ましょう。そう言われて初めて、まだ夜は明けていないことを知った。窓から見える空は暗く、小さな星の瞬きと細い弧を描く月が全ての光だった。「明日は大変ですよ。何たって、監獄に忍び込まなければいけないんですからね」そう言ってグレミオは微笑んだ。「このグレミオが傍にいますからね。ずっと手を握っていますよ」僕の左手を包み込む暖かさ。「…うん」「さ、目を閉じて。子守唄は要りますか?」「あんまり子ども扱いしないでくれよ」僕はとうとうふきだした。グレミオのクスクス笑う声も聞こえた。僕は目を閉じる。左手を包む暖かさだけが全てだった。その夜はもう、怖い夢など見なかった。いつか、ふと目を覚ましたら、こんな戦争なんて夢で、いつものように父やテッドが隣にいて、皆でグレミオのシチューを食べているなんて、そんな現実があればいいのに、と夢を見る。テッドが離れていった。父と道をたがえた。戦争など嫌いだ。もう、何も失わなければいいと思う。しかし次の日、この左手の温かさすら失うことになろうとは。x x x父さんが悪いんだ。いきなり1なんて始めるから。もう、何もかも懐かしいです。坊ちゃんとグレミオは、紋章に解放されるまで、永遠に二人で旅を続ければいいんだと思います。ちなみに黒兎は、「グレミオは体をなくしたけれど、門の紋章の力で生き返ったので、普通の人間とは時の流れが違うんだよ」派です。つまり、坊ちゃんとずっと一緒に旅していてください派です。紋章の保持者は本当に悲しい。2主はナナミを失うし、クリスなんかも、ボルスやパーシィちゃんなんか全員失うんだぜ。そう考えると、もしかしたらルックは幸せになれたのかな…ずるいぞ。 PR