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マイナー作品とかのションボリ二次創作を細々と。

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喝采

呪われた僕に呪われたお前 幻水1/坊ちゃんとグレミオ



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彼が年を取らぬことに気づいたのはいつのことだったろうか。
久しぶりに立ち寄ったある村。その村がいつのまにやらあまりにさびれ、話を聞いてみたらあの日からもう5年が経っているのだという。
そう話してくれた男は疲れた顔で微笑んだ。その疲れた表情の中に、5年の歳月の昔に見た面影があった。
そう、5年もあれば人は変わる。
なのに、彼は何も変わらない。
金の髪は伸びるけれど白い肌にしわが刻まれることは無く、優しく暖かい声がしゃがれることも無く。
その右手に、忌まわしき黒い印はないというのにだ。

「僕は、お前を呪ってしまった」
寝ずの番は私が引き受けますという彼を強引に寝かしつけ、僕は一人で焚き火を見つめていた。
ぱちぱちと木の爆ぜる音だけがあたりに響き、薪同士がぶつかり合うカタンという音すら静寂を切り裂くだけの威力を持つ夜。
「僕は、お前の全てを奪った」
それは言葉通りの意味だった。
生涯を奪った。それは父の望む所でもあり彼自身の望む所でもあり、それ自身はどうということでもない。
傷を付けた。それは、彼自身の過失もあったのだと聞く。だが、幼き頃の自分に彼を愛することが出来ていたなら展開は変わっていたかもしれない。
武器を取らせた。それは元々彼の父の形見なのだと聞いた。木を切って生計を立てる生活。それはきっと貧しいが幸せな生き方なのだろう。
戦いに巻き込んだ。元々戦いを望まぬ優しい男だった。あなたを護りたいんですと微笑んだ笑顔を否定することが出来ずに、自分より弱い彼に自分を護らせた。
そして命を奪った。この忌まわしい右手に宿る印。三百年の間我が親友を苦しませ続け、そして今は僕を苦しませる黒き悪夢。これが、彼を食った。
それで終わりのはずだった。
しかし彼の命を呼び戻した。彼の魂には未練があったのだという。仲間の祈りが通じて彼は生き返った。
だが、何故彼だったのか。解放軍を作った彼女でもなく、この忌まわしき印を三百年も護り続けた彼でもなく、優しく強く僕を育て見守り続けてくれた父でもなく。
…きっとそれはただの我侭なのだ。奇妙な星の巡り会わせで皆を束ねるリーダーとして選ばれた僕の。
107人という…いや、それ以上の人間を巻き込んだ、それは僕の壮大な我侭だったのだろう。
ただ、戦の中で失われた彼の笑顔がもう一度見たくて。彼の作る暖かなシチューをもう一度食べたくて。もう一度名を呼んで欲しくて。
彼女でも親友でも父でもなく彼を選んだ僕の。
彼にも未練はあっただろうと勝手に決め付けて。決心をして死を選んだ彼を否定して。そうまでして彼をもう一度手に入れたかったこれは、僕の我侭だ。
「そして、僕はお前に呪いを刻んだ」
一度、忌まわしき印に喰われた命は、その反対の力を持つ忌まわしき印によってもう一度この世に作り出された。
二つの忌まわしき力を経て生と死を体験した彼は、もはやヒトではないのだろう。
僕と同じ、呪われたからだ。
「僕は、お前を呪ってしまった…!」
年を取らぬからだ。強大な力と引き換えに失う沢山のもの。
一人なら耐えることもできたろう。奪った沢山の命を右手に握り締めながら、ただひっそりとどこかの森の中で生を送ればよかった。
二人なら耐えることは出来ぬだろう。僕だって人間なのだ。傍にいてくれる人間がいるなら…泣くだろう。
その役を彼に押し付けることになってしまった。永遠の生を二人ぼっちで生きながらえながら、三百年、一人で旅した彼のように二人さ迷うのだ。
その中でまた僕は誰かの命を奪うのだろうし、それはもしかしたら、また彼なのかもしれなかった。
それでも彼は笑うのだろう。
あなたのそばにいることが、わたしのしあわせなのです。と。

「この右手さえなければ…!!」
切り落とすことは出来ない、傷つけることも出来ない。ナイフは印の上を滑って皮膚を傷つけた。
流れ出る血が温かくて、傷口が熱く疼いて、まだ僕は生きているのだと感じた。
「…僕は、お前を呪わずに、」
もう一度振り下ろしたナイフは、忌まわしき印に届く前に止められた。
僕の左腕を押さえた細い白い手。斧なんかを握るには余りに綺麗過ぎる手。
「駄目ですよ、坊ちゃん。自分を傷つけるなんて」
刃物なら包丁だけを握っていればよかったはずのその手。赤いものならケチャップだけと関わっていればよかったはずのその手。
その手に斧を握らせたのは誰だ。その手を血の赤で染めさせたのは誰だ。
その手を一度失わせたのは誰だ。その手をもう一度手に入れたいと願ったのは誰だ。
「…私が、自分で望んだのですよ。だから、坊ちゃんは私を望んでくれるだけでいい」
そう言って彼は微笑んだ。ずっとずっと変わらない笑顔。もう変わることの無い笑顔。
「あなたが私を望んでくれるのなら、私はどこへだって行きますよ。世界の果てでも黄泉の世界までも」
でも、ああ、だからこそ僕は安心できるのだ。
彼は、僕が行くから着いてゆくのだというだろう。だが本当は、彼がいるから僕は生きていられるのだろう。
僕は一つ頷いて、ナイフを取り落とした。カランと地面に転がったナイフ。
それを見てからもう一度僕の顔に視線を向けて、偉いですねと彼が微笑んだ。
僕はもう子供じゃないんだ、そう言って褒めるのは止めてくれよと、僕は軽口を叩いた。
…そう、そんな永遠でも、僕はきっと幸せだと思ってしまうのだ。


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喝采と言うタイトルが使いたかっただけ。
ミヲは年を取らなければいいと思います。
ミヲはそれを単純に喜んで(坊っちゃんをもう置いていかないですむから)、
坊っちゃんはそのことでずっと後悔していればいい。

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