そこに俺の居場所がないことを知っている その他SS/落書き/語り 2008年03月15日 過去を見ながら未来も見つめるアンタが綺麗で。 ハナコ←シーカー※キャラ設定はこちらをご覧ください。 x x x「私、彼氏がいたのよ。ラブラブだった」二人だけで飲んで、酔うと、姐さんはいつもその話をする。俺は黙って、グラスを持ち上げた。「ちょっとぉ、聞いてるのぉ!?」「うん、聞いてるよ」口を挟めば怒るくせに、相槌は求めるのだ。そんなところが姐さんらしくて、俺はちょっと笑った。怒られるかと思ってすぐ表情を引き締めたけど、どうやら姐さんは気付いてないみたいだった。赤いワインをグラスの中でぐるぐる回しながら、ぽつりと話し始める。「一緒に買い物行ったりね、とっても幸せだった」「うん」「彼ったら、私に服買ってくれたのよ。お金ないくせに」「うん」「荷物まで持ってくれてさ。信じられる?メディックのくせに」「力持ちだったの?」「まさかぁ!私のが力はあったと思うわ」「そっか」姐さんはふふ、と笑う。その顔がすごく幸せそうで、つられて俺もちょっと幸せになった。「そう、すごく優しい人だったのよ」「うん」「…すごく優しい人だったの」「うん」「彼、メディックでね、すごく腕が良かったのよ」「うん」「でもね、病気で死んじゃった」仄かな明かりを反射して、視界の隅できらりと光ったものの正体を、あえて俺は確かめはしない。姐さんの表情はさっきとかわらなくて、少し辛くなって俺はグラスを持ち上げて何でもない風を装った。「生まれた時から持ってた病気だったんだって。死ぬの、わかってたんだって」「そっか」「好きですって最初に言った時に、病気のこと話してくれてね、すごくショックだった」「そうだろうなぁ」「何よ、気持ちこもってないわよ」少し睨まれて、俺は慌てて言葉を紡ぐ。「そんなことないよ。俺だって好きな…いや、もし姐さんが、いつか死ぬ病気を持ってたりしたら、すごくショックだ」声にしながら、そんな状況を想像してしまい、予想以上に悲しくなる。そんな感情が声に出たのだろうか。「そう?ならいいんだけど」そう言って、姐さんはすぐに引き下がってくれた。「…でもね」そして、また話し始める。「その時は、奇跡を信じてた」「…」「二人がいい子にしてれば、きっと奇跡が起こるって」「…」言葉が途切れた。その先は聞きたくない。もう、何度も聞いた話だから。「…でもね、起きなかったのよね」姐さんの表情は変わらない。彼女が、表情を作ることがとても得意だと気付いたのは、2度目にこの話を聞いた時だ。「ねぇ、何がいけなかったのかしら?教えてよ」青い瞳が俺を映した。その瞳に吸い込まれそうになって、俺は顔を背けた。「って言われても、俺知らないよ」「あなたに聞いた私が馬鹿だったわ」姐さんがクスリと笑う。そんな笑いでも、表情を変えてくれたことに、俺はちょっと安堵した。「…なあ、姐さん」「何?」「そいつのこと、忘れられないの?」「当たり前じゃない」姐さんは、自慢げな顔で笑った。「俺じゃ代わりにならない?」「当たり前じゃない!」おどけて言った言葉は、やはり彼女の中で冗談に分類されてしまったようだ。俺はことさらいじけた調子を作って、グラスの中に残っていた液体を喉に流し込んだ。「はい、ご馳走様ー」「えー、帰るのー?」「姐さんもだよ。もう何時だと思ってるの」そんなことを言いながら、金を取り出す。「あら、あんたが払ってくれるの?」「どーせ、最初からそのつもりだったろ」「あら、良く分かったわね!シーカー大好きvv」両手を胸の前で合わせた姐さんに、俺はため息を一つついて、何枚かの札をカウンターの上に置いた。そんな「好き」でも幸せになれる自分が、ちょっと嫌で、でもやっぱり幸せだった。 x x xダクハン♀はS、ダクハン♂はMのイメージががががが(何苦労をかけるおねぃさんと苦労人、というコンビが大好きです。 PR